スチュバイ(STUBAI)
 スチュバイ社はオーストリア西部チロル地方のスチュバイ・タール(Stubai-tal、タールは谷の意)のフルプメスに本拠を置く金属メーカである。フルプメスには古くから鍛冶屋が多く、それらが集まって協同組合のようなものを形成していった。スチュバイ社もその一つである。スチュバイの商号は1898年から使い始めた。現在も事業の一部として登山用品を作っている。

 
       フルプメス駅
        スチュバイの登山用品部門事務所


スチュバイ・モデル(ロング・タイプ)(Stubai model, long type)
 戦後スチュバイの代表的モデルで1950年代の作と思われる。ヘッド長28.5p、大きく湾曲したブレードが特徴。
 このモデルは日本にも輸入されたが特に型名がなかったため他のモデルと区別するためにスチュバイ・スチュバイと呼ばれた。写真のピッケルはスチュバイ社がスイス山岳部隊に供給した物であり、未使用品である。石突きもきれいに仕上がっている。











スチュバイ・モデル(ショート・タイプ) (Stubai model, short type)
 スチュバイ・モデルのショート・タイプでヘッド長27.0pの物。当然ながら上記のロング・タイプに比べて軽量なので女性用だったのかも知れない。
 ピック背面にはアッテンホーファー(A.ATTENHOFER ZÜRICH)の刻印が打ってある。アッテンホーファーはチューリッヒのスポーツ店の名前だと思われる。したがってこのピッケルはオーストリアのスチュバイの製品をアッテンホーファーが仕入れてスイスで販売した物であろう。


左がロング・タイプ、右がショート・タイプ



アッシェンブレンナー(ロング・タイプ、コンケーブ・ブレード) (Aschenbrenner, long type, concave blade)
 戦前・戦後を通じて活躍したオーストリアの有名な登山家ペーター・アッシェンブレンナー(Peter Aschenbrenner)の名を冠したモデル。ブレードがフラットなモデルとコンケーブ(湾曲)したモデルとがある。またヘッド長が長いロング・タイプと、短いショート・タイプがあった。写真はヘッド長31.5pのロング・タイプでコンケーブ・ブレードの物である。
 銘の2段目FührerpickelのFührerとはガイド(山案内人)のことを表し、3段目の刻印Ges.Gesch.は、Gesetzlich Geschütztの略である。Gesetzlichは「法律上で」という意味であり、 Geschütztは「守る」という意味であるのでAschenbrennerが登録商標であることを意味しているようだ。









アッシェンブレンナー(ロング・タイプ、フラット・ブレード) (Aschenbrenner, long type, flat blade)
 アッシェンブレンナーのブレードがフラットなモデル。ヘッド長は30.2pであり、コンケーブ・ブレードの物よりもやや短い。メーカ名を表すスチュバイの銘は菱型の中にSTUBAIと書かれた物が古く、山型の方が新しい。









ロング・タイプ同士の比較
↑コンケーブ・ブレード    ↓フラット・ブレード


↑フラット・ブレード    ↓コンケーブ・ブレード



アッシェンブレンナー(ショート・タイプ、フラット・ブレード) (Aschenbrenner, short type, flat blade)
 アッシェンブレンナーのショート・タイプでフラットなブレードの物。ヘッド長26.5p。ピック下側に刻まれた細かい刻みはロング・タイプが20段であるのに対してショート・タイプでは15段と少なくなっている。









フラット・ブレード同士の比較
↑ショート・タイプ    ↓ロング・タイプ



アッシェンブレンナー(ショート・タイプ、コンケーブ・ブレード)(Aschenbrenner, short type, concave blade)
 アッシェンブレンナーのショート・タイプでコンケーブ・ブレードの物。ヘッド長26.5p。ピック下の刻みは深くなって5段になり、ピック先端に移されている。シャフトにはオーストリアの国旗とスチュバイのロゴを組み合わせたシールが貼り付けられている。







ショート・タイプ同士の比較
↑フラット・ブレード    ↓コンケーブ・ブレード



アッシェンブレンナー(ショート・タイプ、コンケーブ・ブレード、穴あき)(Aschenbrenner, short type, concave blade, with hole) 
 アッシェンブレンナーのショート・タイプでコンケーブ・ブレードであり、カラビナ・ホールが空いた物。ヘッド長26.5p。1980年前後に製造された物と思われる。アッシェンブレンナーで穴あきの物はこのタイプしかなかったと考えられる。







ショート・タイプ同士の比較

スチュバイ製アッシェンブレンナー5タイプの比較。左側2本がロング・タイプ、右側の3本がショート・タイプ。



ウォルナー (model Wallner)
 1970年代頃の製品である。Wallnerとはチロル地方の山岳ガイドFriedrich Wallner(フリードリッヒ・ウォルナー)のことである。
 ヘッド長27.5p。先端に膨らみを持たせた特異な形状のピックが特徴。ブレード先端も波形に加工がされている(この時代のスチュバイ製品は他モデルも同様のブレード形状だった)。
 ピック背面にはALBELT LUTZ AG 及びTEUFEN と刻印されてる。これはオーストリア国境に近いスイス北東部の町トイフェンのアルベルト・ルッツ社の刻印であり、同社が販売したことを表しているようだ。











ナンガパルバット (NangaParbat)
 1953(昭和28)年にドイツ・オーストリア合同隊が初登頂したナンガパルバットの名を冠したモデル。1970(昭和45)年発行の安久一成著「雪山技術」(参考文献1-3)にこのピッケルの写真が載っているので1960年代には既に作られていたモデルである。ピック表面の平面性が高く、仕上げが非常に美しい。ヘッド長28.5p。ブレード先端は波形加工されている。未使用品のため各部が美しい。










ナンガパルバット・エクストレーム(NangaParbat Extrem) [千葉県八日市場市、中台格之氏所蔵]
 ナンガパルバットのピックを急カーブにした氷壁用モデル。雑誌「山と渓谷」1973(昭和48)年12月号(参考文献6-2)にこのピッケルが掲載されているので1970年代初めには作られていたと思われる。ヘッド長28.0p。シャフトは少しテーパが掛かっていて下に向かうほど太くなっている。